1. はじめに
障害に関する公的制度にはさまざまな種類があり、その仕組みは複雑です。なかでも、「障害年金」と「障害者手帳」は名前が似ていることから混同されやすく、実際にこんな声をよく耳にします。
- 「障害者手帳を持っていれば年金がもらえるんでしょ?」
- 「障害年金を受給しているなら手帳も自動的にもらえるんじゃないの?」
しかし、実際にはこの2つの制度は目的も申請条件もまったく異なります。
この記事では、「障害年金」と「障害者手帳」のそれぞれの制度の概要と違い、そしてよくある勘違いについて、専門知識がなくても理解できるように解説していきます。ご自身やご家族の支援制度を正しく活用するために、ぜひ参考にしてください。
2. 障害年金とは?
公的年金制度の一部
障害年金は、国民年金または厚生年金に加入していた人が、病気やケガによって生活や仕事に著しい支障をきたすようになった場合に支給される公的年金のひとつです。
老後の「老齢年金」や、亡くなった方の遺族に支給される「遺族年金」と並ぶ、いわゆる「3大年金」のひとつとして位置付けられています。
対象者と受給要件
障害年金を受給するには、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 初診日が特定されていること
- 病気やケガについて初めて医師の診療を受けた日が必要です。
- 障害等級に該当していること
- 障害等級は1級~3級まであります(※障害基礎年金は1級・2級のみ)。
- 保険料納付要件を満たしていること
- 初診日の属する月の前々月までに、直近1年間の未納がないか、または加入期間の3分の2以上で納付していることが必要です。
- ただし、20歳前に初診日がある場合(20歳前障害)は納付要件が免除されます。
- 医師の診断書による証明があること
このように、「障害がある」という事実だけでは受給できません。保険制度上の要件や医療的な証明が必要です。
支給内容
障害年金は金銭的な支援として、毎月一定額が年金として支給されます。支給額は、障害等級や扶養家族(配偶者・子)の有無、年金加入種別(国民年金 or 厚生年金)によって異なります。
たとえば、障害基礎年金2級を単身で受ける場合の年額は約80万円程度(2025年現在)。厚生年金の加入歴が長い人や収入が高かった人ほど、支給額も増える傾向があります。
3. 障害者手帳とは?
福祉サービスを受けやすくするための制度
障害者手帳は、障害のある人が日常生活で必要な福祉サービスを受けやすくするための「証明書」です。年金のように金銭が直接支給されるわけではなく、生活支援や割引サービスを受けるための根拠となる制度です。
手帳は、医師の診断書をもとに自治体が審査し、一定の基準に該当した人に対して交付されます。
手帳の種類と対象者
障害者手帳には以下の3種類があります。それぞれの制度で対象となる障害や等級が異なります。
手帳の種類 | 対象となる障害 | 等級の例 |
---|---|---|
身体障害者手帳 | 視覚、聴覚、肢体不自由、内部障害など | 1~6級(重いほど低い数字) |
精神障害者保健福祉手帳 | 統合失調症、うつ病、双極性障害、発達障害など | 1~3級 |
療育手帳 | 知的障害(知的発達に遅れ) | A(重度)、B(中度)など※自治体によって表記が異なる |
支援内容
障害者手帳を持っていると、以下のような割引・優遇措置が受けられることがあります。
- 公共交通機関の割引(バス、電車など)
- NHK受信料の全額または半額免除
- 所得税・住民税の控除
- 公共施設の入館料・使用料の免除や減額
- 携帯電話料金の割引
こうした支援は生活費を直接補助するものではありませんが、日常生活の支出を軽減する効果があります。
4. 【比較表】障害年金と障害者手帳の違い
項目 | 障害年金 | 障害者手帳 |
---|---|---|
制度の目的 | 金銭的支援 | 生活支援・優遇措置 |
対象者 | 障害等級(1~3級)に該当し、保険料納付要件を満たす人 | 一定の障害があると認定された人 |
支援内容 | 毎月の年金支給(現金) | 各種割引、免除、優遇措置 |
必要書類 | 診断書、初診日証明、年金加入記録など | 診断書、申請書類(自治体による) |
所管機関 | 日本年金機構 | 各自治体(市町村・都道府県) |
等級制度 | 1~3級(制度により異なる) | 1~6級/1~3級/A・Bなど |
両制度は目的も管轄も異なるため、「片方が通ればもう片方も通る」とはいえません。あくまでそれぞれ別個に審査される独立した制度です。
5. よくある誤解・質問と回答
Q1:「手帳を持っていれば年金ももらえる?」
A:いいえ、必ずしもそうではありません。
障害者手帳と障害年金は制度の根拠がまったく異なり、手帳があるからといって自動的に年金が支給されるわけではありません。
Q2:「障害年金を受給していれば手帳も取れる?」
A:これも必ずしも正しくありません。
障害年金と障害者手帳では、それぞれの審査基準が異なるため、年金を受け取っていても手帳が交付されないケース、あるいはその逆もあります。
Q3:「どちらを先に申請すべき?」
A:生活状況や目的により異なりますが、金銭的に困っているなら障害年金の申請が優先です。
ただし、医師が手帳用の診断書をスムーズに発行してくれる病院であれば、手帳の取得から先に進めるという選択肢もあります。支援者(相談支援専門員や社労士)と連携しながら進めましょう。
6. まとめ
障害年金と障害者手帳は、どちらも障害のある人にとって重要な支援制度ですが、その目的・要件・支援内容・手続き先はすべて異なるものです。
| 障害年金 → 金銭的に生活を支えるための制度
| 障害者手帳 → 生活を便利にするための証明書
それぞれの制度の違いを理解し、自分に合った制度をしっかり活用することで、生活の質を向上させることができます。
もし申請の方法や要件について迷った場合は、社会保険労務士(社労士)や福祉窓口、医療ソーシャルワーカーなどの専門家に相談することをおすすめします。制度の複雑さに惑わされず、必要な支援を確実に受け取るために、正しい情報に基づいた判断をしていきましょう。
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